トップコミットメント

企業価値の向上を一番のミッションに
1990年(平成2年)に横浜銀行に入行した私は、神奈川県鎌倉市にある大船支店での勤務から銀行員生活がスタートしました。以来、商品開発など企画畑を中心に歩んできました。いい時期もあれば、苦しい時期もありました。バブル経済の崩壊から公的資金の受け入れ、リーマン・ショックと銀行経営を脅かす局面にいくつも対峙しましたが、私自身の記憶を辿ると、共通するのは “お客さまに助けていただいた” との思いです。
横浜銀行は2020年に創立100周年を迎え、東日本銀行は2024年に創立100周年を迎えます。歩んできた長い歴史に思いをはせると、やはり “感謝の気持ち” しかありません。地盤となる地域があって、そこにお客さまがいらっしゃいます。日々の業務の一つひとつに対する感謝の思いを胸に秘めて、何かお役に立つことはないかと考え続けることが私たちの仕事の根底にあると感じています。
2022年4月に横浜銀行の頭取に、6月にコンコルディア・フィナンシャルグループの代表取締役社長に就任しました。上場会社の経営者として、株主の方々に報いるために、企業価値の向上を一番のミッションと捉えています。
基本的な考え方として、企業価値を高めるためには収益を向上させる必要があります。「収益とはお客さま満足度の総和である」と言われるように、収益向上のためには地域のお客さまに支持されなければなりません。また、いくらいい商品やサービスがあったとしても、お客さまに納得感を持って利用していただくには従業員の強い熱意やモチベーションが欠かせません。つまり、企業価値の向上を実現するためには、お客さま、地域社会、従業員、株主といったステークホルダーをトレードオフの関係ではなく、 トレードオンの関係として考え、成長戦略を描くことが重要です。このことがコンコルディア・ フィナンシャルグループと横浜銀行のトップを兼任する私の役割だと思っています。
お客さまの期待を超えるサービスを提供する
銀行を含めた金融業界は、大きな環境変化の最中にあります。人口減少・高齢化の進展、国内経済の低成長や低金利の常態化など厳しい環境が継続していることに加え、金融規制緩和や異業種の参入により銀行ビジネスへの障壁は薄れつつあります。さらにこの数年は、気候変動対策などの環境問題や社会問題への意識も高まり、社会における事業の持続可能性が問われるようになっています。
こうした、いくつもの環境変化から特に強く感じるのは、「スピード」と「多様化」の2つです。デジタル分野を中心とした技術革新によって、 世の中の変化のスピードが速まり、人々の価値観やニーズは多様化しています。インターネットやSNSを通じてお客さまは多くの情報に接しており、ワンクリックで銀行同士が比較される時代です。これまでのように前例踏襲によるプロダクトアウトの発想では、銀行のビジネスは立ち行かなくなるでしょう。お客さまが何を本当に望んでいるのか、何を銀行に期待しているのかを主体的に考え、今まで以上にマーケットインを志向し、お客さまの期待を超えるオー ダーメイド型のサービスを提供することが求められています。
2019年度に策定した前中期経営計画では、長期的にめざす姿を「従来の銀行を超える新しい金融企業へ」に定めましたが、その当時には想像もできないほど、数年で世の中は大きく変化しました。コロナ禍を契機とした不可逆的な環境変化に直面し、「新しい金融企業」に対するイメージすら湧きづらい状況になってきました。2022年度から始まる新たな中期経営計画を策定するにあたって、まずはこの「新しい金融企業」の姿をアップデートすることを検討しました。
選ばれるソリューション・カンパニーへ、地銀ナンバーワンへ
こうした長期ビジョンはトップダウンで決め ることが多いのですが、今回はプロセスから見直しました。長期的にめざす姿は、実際に行動に移す私たち皆が責任を持って考えるべきだとの声が多く聞かれ、経営陣だけではなく、全従業員を巻き込んだ議論を進めました。具体的にはアンケートや意見交換の機会を通じて、私たちはどこに向かうべきなのかを検討してきました。そうして決まったのが「地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・ カンパニー」です。
ここには、いくつか特徴的なフレーズが登場します。1つ目は「ソリューション・カンパニー」 です。多様化するニーズへの課題解決が付加価 値の源泉であることは、前中期経営計画でも強調した部分ですが、これをさらに高度化させていくという意思を表しています。2つ目が「地域に根ざし」です。これは多くの従業員から意見が出た部分です。いくらソリューションを提供し収益を高めても、営業基盤となる地域が発展しなければ、私たち地域金融機関のビジネスは持続可能とは言えないのではないかという危機意識があります。地域金融機関として、しっかりと地域に向き合っていくという思いを表現しています。
3つ目が「ともに歩む存在として選ばれる」 です。お客さまの期待を超えるサービスを提供し、お客さまに選ばれる金融機関になるという思いと、私たち自身が地銀ナンバーワンとしての矜持を持ち続けていようという思いを反映しています。地銀ナンバーワンの矜持とは、単に預金や貸出が一番多いということではなく、日頃の行動を含め、日本を代表する地域金融機関としての役割を担っているのだという自負と言えます。

変革を加速し、成果を具現化させていく3年間に
前中期経営計画での成果や課題を踏まえ、新中期経営計画をどのように位置付け、どのような取り組みに注力していくのかを説明します。
前中期経営計画は、将来の基盤づくりに向けて改革を推し進めた3年間でした。その変革には大きく2つの種類があります。1つは構造改革です。生産性向上に向けて、店舗の統廃合や、営業店の業務プロセスの見直しを進めました。例えば店舗のオペレーションでは、AGENTというタブレット端末を設置し、お客さまご自身が入力した内容がそのまま勘定系システムに連携される仕組みを導入しました。その結果、5年で業務量を3割削減する目標を2年前倒しで達成し、OHR(経費率)も目標とする60%の水準まで下がりました。
もう1つは提案能力の向上です。伝統的な貸出ビジネス中心から課題解決型のソリューション営業への転換をはかりました。課題解決に向けて、LBOローンや、ハイブリッドローンなど高度なファイナンスサービスを拡充した結果、預貸金利息以外の役務収益が増加し業務粗利益にプラスに働きました。
新中期経営計画では、こうした基盤づくりに向けた変革を加速し、成果を具現化させていく3年間にしたいと考えています。変革を推し進めながら計画達成を確実なものとしていくとともに、中長期的な観点からの成長戦略もしっかり進めます。
この新中期経営計画では、「Growth」「Change」 「Sustainability」という3つの基本テーマを掲げています。「Growth」は、ソリューション営 業の強化や高度化、そして戦略的投資や提携の活用によるビジネス領域の拡大といった成長戦略です。「Change」は、人づくりの強化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)といったソリューション・カンパニーに向けた改革です。そして「Sustainability」は、サステナビリティ経営の確立やガバナンスの高度化による経営基盤の強化により、「Growth」「Change」を支えていく位置付けです。
ゴールとして、ROEは24年度で6.0%程度、長期的には7.0%程度をめざします。その過程にはさまざまな課題が立ちはだかることもあるかと思いますが、一つひとつの課題に対し、前例踏襲ではなくチャレンジ精神を持って取り組んでいけば決して無理な水準ではないと考えてい ます。
人づくりを進めるとともに、多様性を認め合う組織風土の醸成に注力していく
目標達成への大きなカギを握るのは、人づくりにあると考えています。人財育成にはその目的として2つの側面があります。1つはお客さまに選ばれるだけの高い能力を身に付けることです。もう1つは仕事にやりがいを持つために自分のスキルを高めることです。その2つが相互に作用し、スキルアップがお客さまからの感謝を生み、その感謝がモチベーションにつながるのが理想的な人財育成の姿です。
ただし、構造改革によって担当業務がなくなる従業員に、いかにして新たなチャレンジを促していくのか、リスキリングへの支援は道半ばです。人間は変化を恐れますし、現状維持を好む人も多くいるでしょう。だからこそ、今後のキャリアプランを描く際、自分一人が変わるのではなく、会社全体が変わろうとしていることや、なぜそれが必要であるかを納得してもらうためのキャッチボールがとても重要です。特に上司は部下に対して関心を持ち続けてもらいたいと思っています。自分の頑張りがきちんと見られていて、認められることこそが成長の源泉になるからです。
また自分のスキルを高めるうえで、従業員に意識してほしいのは “井の中の蛙” にならないことです。銀行の常識が必ずしも世の中の常識とは限りません。これは私が意識してやってきたことですが、銀行以外の方との関係をできるだけ増やし、極力こちらからお声がけし、会話の機会を持つようにしてもらいたいと思います。それにより、銀行の中で悩んでいたことが意外と大したことでもないと思えたり、解決への新たな気付きを得たりすることが少なくないのです。
人づくりを進めるとともに、多様な人財が活 躍する組織風土づくりにも注力していきます。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョ ンの取り組みについては、異なる相手同士がリスペクト(尊敬)する気持ちが入り口になけれ ばいけないと感じています。相手の良いところを見つけて、不足している部分は補完する。すべてを100%できる人など存在しないという謙虚な前提に立って、それぞれが得意な部分を役割分担していく志向が大切です。多様な人財が能力を最大限に発揮し、新たな価値を生み出す組織風土の醸成に向けた取り組みを一層進めていきます。

サステナビリティ分野におけるハブとして地域に貢献していきたい
長期的にめざす姿で「地域に根ざし、ともに歩む」と示したとおり、サステナビリティと地域の成長は切り離せない関係です。私たちのマー ケットは本当に恵まれています。地盤とする神奈川県と東京都は国内GDPの4分の1を誇る経済規模で、上場企業の6割が集積しています。 ただ、そのホームマーケットが衰退してしまっては、私たちの持続的な成長も難しくなるでしょう。地域社会の問題を自分事として捉えることがサステナビリティの原点です。
特に脱炭素化は、私たちも率先して取り組んでいます。2022年1月には、カーボンニュートラル達成時期の目標を2050年度から2030年度へ前倒しすることを表明し、その第一歩として2022年度には、横浜銀行のすべての自社契約電力を実質再生可能エネルギー100%にしていきます。また、2022年5月に神奈川県内の地方公共団体向けに「地域脱炭素プラットフォーム」 を設立するなど、サステナビリティ分野におけるハブとしての役割を担い、地域に貢献していきたいと考えています。
法人のお客さまにとっても、自社の脱炭素に向けた取り組みはいまや共通する経営課題です。私たちはお客さまの取り組みフェーズに合わせたソリューションを提供していきます。例えば、東証プライムに上場する製造業のお客さまの中には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づく気候変動リスクを開示する必要があり、スコープ1、2、3に準じた排出量の算出に苦慮されているといった話も聞かれます。こうした算定の支援を外部機関と連携しておこなうのは私たちのソリューショ ンの1つです。さらに、サステナビリティリンクローンやポジティブインパクトファイナンスといった金融支援も積極的におこなっています。また、脱炭素に向けた優先課題の把握に取り組まれるお客さまに対しては、CO₂排出量の可視化やSDGs事業性評価などのソリューションを提供しています。
自動車産業を典型として、脱炭素化はビジネスモデルの転換を迫っています。M&Aや設備 投資への資金ニーズなど、高度なソリューションを提供する機会はますます増えていくと考えています。
スピード感を持って挑戦し続け、新たな価値を創造していく
DX(デジタル・トランスフォーメーション) は、それ自体を目的化するのではなく、手段として有効に活用することを主眼に据えています。 デジタル技術を駆使した金融・非金融サービス を通じて、地域のお客さまに新たな体験・価値 を届けるとともに、高度なデジタルソリュー ションの提供により事業成長を支援することができます。また、デジタル技術を使うメリットとして、お客さまの利便性を高めることのみならず、社内業務の効率化をはかることがあります。それらを各戦略に落とし込み、真に意味あるサービスとして打ち出したいと考えています。
すでにお客さまは、普段の生活でデジタルツールを多用しています。例えば、個人のお客さまには、銀行のサービスが生活の一部として自然と入り込むようなユーザーエクスペリエンスを次期スマホアプリとして提供していく計画です。私たちには資産形成層を中心とした約500 万人もの個人のお客さまがいらっしゃいます。対面と非対面で最適なチャネルを選んでいただき、ライフステージに応じて、住宅購入、教育、退職などのライフイベントに対するソリューション を提供し、お客さまの一生涯のパートナーを務めていきたいと思います。
変化が激しい時代こそ、ビジネスにおいては柔軟な発想が大切です。以前に失敗したことが今なら成功する可能性もあるわけです。私たち自身がスピード感を持って挑戦し続けることでお客さまの期待を超え、一つひとつの課題を解決していくことが新たな価値を生み出す原動力になると考えます。お客さまからの共感や感動の積み重ねが大事であり、また、新たな価値の創造を通して地域社会の発展に貢献していくことで、私たちも持続的な成長を遂げられるのだと思います。
企業価値の向上を担う執行側の代表者として、株主をはじめとしたステークホルダーの方々とは、さまざまな機会を通じて対話を重ね、これまで以上にコミュニケーションを密にはかっていきたいと思います。
コンコルディア・フィナンシャルグループの未来のために、これからもお力添えをいただけますようお願いを申し上げます。
