財務担当取締役メッセージ

資本コストを上回るROEの実現に向けた戦略の議論を充実。経営戦略と連動した人財戦略の実行を通じて人的資本の価値を高め、ソリューション収益力の強化を通じて企業価値を向上させていきます。

企業価値向上に向けた中長期の戦略議論を充実

2022年6月、コンコルディア・フィナンシャルグループの取締役に就任しました。財務担当役員としても初年度でしたが、社長の片岡のもと、企業価値向上に向けた議論を重ね、戦略の実現や取り組むべき課題への対応に向けて一歩ずつ着実に進めることができた1年間であったと実感しています。
当社では、企業価値向上に向けた中長期の戦略に関する議論の充実をはかる観点から、期初に経営方針・経営戦略等に関する年間テーマを選定し、取締役会で議論をしていますが、2022年度は、資本の有効活用の方向性やグループ人財戦略の策定などのテーマを選定し、取締役会における議論の充実をはかってきました。なかでも「リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)の高度化」をテーマとし、中期経営計画や予算計画の達成に向けて、経済資本・規制資本等の配賦と財務予算の連動性を高める議論を重ねてきたことで、企業価値向上に向けたROE向上と株主資本コスト低減、これらにつながる部門別配賦資本の最適化や部門別リスク・リターンの向上に関する方向性などについて、これまで以上に具体的に整理することができました。東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現」に向けた対応を要請されていますが、まさにRAFの高度化の議論を進めてきたことにより、このタイミングで、当社としての考え方をお示しすることができたと考えています。
2023年度についてもこうした議論をさらに深掘りし、当社グループの持続的成長の促進と中長期的な企業価値の向上に向けて戦略の具体化に努めていきます。

社会価値創造を通じて、さらなる企業価値の向上へ

当社グループはこれまで約100年の歴史を通じて培ってきた財務資本と人的資本等の非財務資本を統合的に活かしながら、本業を通じて金融仲介機能を発揮し、地域経済に血液たる成長資金を供給することで、社会価値を創造してまいりました。そして社会価値の創造を通じて地域とともに成長し、企業価値を高めてきました。
「価値創造プロセス」でも示していますが、企業価値は会社の経済価値です。これは事業活動から生じる事業価値に加え、人的資本などの無形資産による価値も含めて企業価値と考えています。
こうした企業価値に関する評価は、時価総額や株価に反映されています。当社のPBRの状況を振り返ると、リーマンショック発生後、PBRは1倍割れとなり、2016年のマイナス金利導入以降はさらに低水準で推移し、足元では0.6倍程度(2023年7月現在)という状況にあります。
当社の株主資本コストはCAPM(当社独自基準)や株式益利回りによる推計値に基づき、6.0~9.0%程度と認識していますが、当社の2022年度におけるROE(*1)は株主資本コストを下回る5.0にあり、このことがPBRが低水準にとどまっている主因と認識しています。今後着実にPBR引き上げにつなげていくためには、金融環境に頼るだけではなく我々自らの努力で株主資本コストを上回るROEを実現していく取り組みをおこなっていくことが必要不可欠と認識しています。

ROE向上と株主資本コスト抑制により企業価値を向上

株主資本コストを上回るROEを実現していくことで企業価値を向上させていくための戦略は、2つの柱に分けることができます。
1つ目の柱は「ROE向上」です。ROE向上に向けては、「RORA改善」と「財務レバレッジコントロール」の2つのアプローチで整理しています。
2つ目の柱は「株主資本コスト抑制」です。株主資本コスト抑制に向けては、「事業リスク低減」と「期待成長率向上」の2つのアプローチで整理しています。
当社では、ROEはPBRと相関性が高く、経営戦略の実行により自律的に向上し得る指標であることから、この2つの柱の1つである「ROE向上」を中核的な経営目標の1つとして設定しています。

ROE向上への5つのドライバー

ROE向上に向けた「RORA改善」と「財務レバレッジコントロール」の2つのアプローチについてはさらに、「収益力強化」、「コストコントロール」、「リスクアセットコントロール」、「資本の最適配分」そして「株主還元の充実」の5つの取り組みに具体化しています。
「収益力強化」では、『リスク・リターン向上へのアセットアロケーション強化』と『役務取引の強化』に取り組んでいます。
『リスク・リターン向上へのアセットアロケーション強化』については、ホームマーケットにおいて、投融資のオポチュニティがあり、我々が得意としてきた中小企業向け貸出や資産家向け融資の強化に注力することに加え、案件を厳選しつつも相対的にRORAの高いストラクチャードファイナンスへのアセットアロケーションを強化することにより、貸出ポートフォリオ全体のリスク・リターンの向上をはかっています。
『役務取引の強化』については、上場会社から中小企業まで裾野の広い法人のお客さまや資産家のお客さまとこれまでに培ってきた貸出を主体としたリレーションシップを活かし、ソリューション提供を強化することにより、配賦資本を使わずに収益を増加させる役務取引の強化に取り組んでいます。
次に「コストコントロール」では、『経費コントロール』と『与信費用コントロール』に取り組んでいます。
『経費コントロール』については、店頭サービスの効率化・非対面化などによる業務量の削減効果を活かし、店舗の統廃合や事務人員の減少をはかることにより、経費削減を具現化しつつ、こうした経費削減により創出した余力の一部をモバイルバンキングなどの戦略的領域へのシステム投資やソリューションビジネスを支える人づくりに向けた人的資本投資などの成長投資に振り向けています。
『与信費用コントロール』については、特定業種や個別の会社への集中リスクを回避するといった取り組みに加え、成長分野に位置付けたストラクチャードファイナンスを持続的に強化していくための、RORAによる採算基準や独自の審査基準指標の設定など、将来のダウンサイドリスクにも備えた厳格な与信管理を徹底しており、大きな環境の変化がない限り、現在の与信費用水準を維持していきたいと考えています。
「リスクアセットコントロール」は、財務の健全性を維持する観点から損失吸収力の高い普通株式等Tier1比率を中期経営計画における中長期的な目標指標の1つに採用しており、規制上の最低所要水準7.0%に加えて、その他Tier1部分(1.5%相当)およびリーマンショック級のストレス発生時における影響(2.5%相当)を勘案し、11.0%~12.0%でレンジコントロールすることを前提に、目標指標を11%台半ばに設定しています。こうした普通株式等Tier1比率のコントロールのもとで、収益性と健全性をバランスさせるリスクアセットをコントロールします。
「資本の最適配分」は、ROE向上の大きなポイントの1つです。資本をより有効に活用してリターンを上げるためには、配賦している資本に対してどれだけの期待収益があるかということを整理・分析し、最適に配分することが重要となります。
昨年度、部門別ROE(配賦資本リターン)を子銀行別/部門別に整理しましたが、最も部門別ROEが高く利益貢献度も最大である部門がソリューションビジネス(国内営業部門)であり、こちらに重点的に資本配賦をおこなうことで成長をめざす、との方向性を改めて取締役会で確認、共有したところです。
一方で、グローバルに歴史的なインフレが継続し、金融当局による金融引締めが長期化する見通しの中で、市場部門のROEが低迷していることから、有価証券ポートフォリオの再構築を通じて市場部門の資本効率の改善をはかっていくことが喫緊の経営課題と認識しております。

そのほか、政策保有株式について、全社的なROEに対して政策保有株式のROEは劣後している状況はこれまで同様変わりがなく、政策保有株式の縮減を通じて配賦資本を抑制していくことは引き続きの課題となります。
そして「株主還元の充実」では、中期経営計画の初年度である昨年度から、「累進的な配当を基本とし、配当性向を40%程度とする」配当方針を掲げております。原則として減配はせず着実に当期純利益の成長をはかることで毎期増配という形で投資家の期待に応えていきたい、と考えています。また、市場動向、業績見通しなどを勘案のうえ、柔軟かつ機動的な自己株式の取得を実行していきます。

株主資本コスト抑制への3つの取り組み

企業価値向上の2つ目の柱である「株主資本コストの抑制」について具体的な取り組みを3つご紹介します。
1つ目は、業績ボラティリティの改善です。業績予想に対する純利益の乖離率が2018~2020年度にかけて特に高まりました。市場部門損益が大きく低下したことが要因であり、こうした観点からも、有価証券ポートフォリオの改善は喫緊の経営課題と認識しています。有価証券ポートフォリオの再構築を通じて市場部門の収益ボラティリティを抑制し、当社の業績全体としてのボラティリティを小さくすることで、株主資本コストを構成するβ値を低減させることにつなげていきたいと考えております。
2つ目は、ホームマーケットの経済活性化です。当社は神奈川・東京を地盤とし、めぐまれたホームマーケットを有していますが、本邦自体の潜在成長率が低位にある中、この地域だけが将来的にも優位性あるマーケット環境が維持されることを約束されたものではありません。やはり、地域金融機関として地域経済を活性化することを通じて当社自身の期待成長率を向上していくことが重要と認識しており、地域社会のサステナビリティを実現するためのマテリアリティ(優先的に解決すべき重要課題)を設定し、KPIを達成していくことで、地域とともに持続的な成長を実現していきます。
3つ目は、ESG評価の向上です。ESG評価と株主資本コストには関連性が見られ、評価の高い企業ほど株主資本コストは低くなる傾向が言われておりますが、社会価値と経済価値を両立させることで利益成長の持続性に対する評価が高まり、そのことが投資家の要求利回りの低減につながる、と理解しております。
このような理解のもとで、2022年4月より、サステナビリティ委員会事務局という当社グループ横断の統括組織を設け、引き続き取締役会の監督のもとで、サステナビリティ経営の高度化への取り組みの強化をはかってきました。こうした取り組みの結果、MSCI ESG格付において、前年度のBB評価を2ノッチ上回るA評価を取得しています。また、GPIFが採用するESG指数の組み入れ銘柄として新たに2つ指定されました。
この結果に満足することなく、さらなるESG評価の向上に努めていきますが、特にESGの文脈では、ガバナンスが重要だと考えています。我々経営陣が投資家の皆さまの信認をしっかり得ていくことがエージェンシーコストを下げることになり、株主資本コストの低減につながるのだと考えています。
こうした取り組みにより、事業リスクを低減させつつ、マーケットに対する説明責任を果たすことで、株主資本コストの抑制を推進してまいります。
そしてROE向上と株主資本コスト抑制、双方の戦略を迅速かつ着実に実行することで、長期的にめざすレベルとしているROE7%程度を早期に達成し、さらなる改善に取り組むことで資本コストを上回るROEを実現していきます。

FG連結純利益は計画を上回る561億円で着地、中計目標指標は順調な進捗

2022年度から現在の中期経営計画がスタートしておりますが、目標指標に対する進捗についてお話しいたします。
2024年度に達成する目標として、ROEを6%程度まで向上、OHRを50%台前半に低下、普通株式等Tier1比率を11%台半ばでコントロールするといった目標を掲げました。2022年実績では、ROEは5.0%、OHRは58.0%、普通株式等Tier1比率はバーゼルⅢ最終化・完全実施ベースで11.86%と、中期経営計画最終年度における目標指標達成に向けて着実に前進しました。
中期経営計画の重点戦略であるソリューションビジネスの深化・拡大を通じて、営業基盤は確固たるものになってきました。ソリューションビジネスをドライバーとした本業の収益力を示すコア業務純益(除く投信解約損益)は2行合算で前年比101億円の増加となり、こちらは特に手応えを感じているところです。今後もさらなるソリューション営業力の強化とソリューション機能の拡充を通じて、ソリューション収益の拡大に取り組みます。
一方で、課題である有価証券運用については、米国金利の上昇等に伴い、前年度は逆ざやの外債を約186億円損切りしました。今年度も有価証券ポートフォリオ改善に約210億円を投じる予定ですが、これにより外債の逆ざや影響はほぼなくなります。
なお、FG連結純利益については、業績予想550億円を上回り、前年度比プラス22億円の561億円となりました。2023年度については、神奈川銀行との経営統合により生じる負ののれん発生益の計上も予定しており、連結純利益予想は630億円を目標としています。中期経営計画最終年度目標である700億円超に向けて着実に前進させていく所存です。
また、株主還元については、2022年度の総還元性向は50%となりました。2023年度は1株当たり配当金を前年度から3円増配の22円と、配当性向は41%程度となる計画です。自己株式の取得についても機動的に実施していく予定です。
中期経営計画最終年度における各種経営指標の達成に向けては、ソリューション収益力が着実に強化できていることと、課題であった逆ざや外債への対応に見通しが立ったことで、順調に進捗していると評価しています。

経営戦略と連動した人財戦略を展開

当社グループの非財務資本の1つである「人的資本」についてご説明します。「価値創造プロセス」でも示しているとおり、人的資本は経営資本における価値創造の源泉であり、最重要資本の1つと位置付けています。ROE向上を通じて企業価値を高め、長期的にめざす姿である「ソリューション・カンパニー」を実現していくためには、人的資本の最大化が必要不可欠です。そこで、経営戦略と連動した人財戦略を策定しています。
ソリューション・カンパニーの実現には、お客さまの課題解決に資するソリューションを提供することを通じて得られるソリューション収益の強化が必要です。ソリューション収益力を強化するには、量(営業人員割合の増加)を投入し、質(1人あたりソリューション収益)を高めることで、ソリューション収益額を趨勢的に増加させ、こうした収益額の一部をさらに人的資本に再投資をはかっていく、こうした利益成長とともに従業員1人あたりの人的資本投資額を毎年増強していく好循環を定着させたいと考えております。
昔から「金融は人」と言われますが、金融機関が多様化・高度化するお客さまのニーズにあったソリューションを提供するためには、銀行員には高い専門性やスキルが求められます。企業価値を生み出す源泉という意味では、当社グループ独自の強さを兼ね備えた、財務業績に貢献できる人財をどう育成していくかにかかっています。人財育成には時間とコストがかかりますが、様々な分野のソリューションスキルを有する人財が数多く育てば当社グループは誰にも負けない独自の強さを持つことになります。
企業価値向上に向けて、「人づくり」「組織づくり」「環境づくり」の三位一体による人的資本投資の強化に、今後も取り組んでまいります。

ステークホルダーとの対話を通じてさらなる経営の高度化へ

2022年4月にコーポレートコミュニケ―ション推進室を立ち上げ、投資家の皆さまとのエンゲージメント強化と、非財務情報も含めたディスクロージャーの充実に取り組んでいます。
IR活動においては、経営戦略説明会「IR Day」の開催を通じて、取締役会で議論した内容を、投資家の皆さまと共有する機会を定期的に設けています。2022年度は、投資家の皆さまから寄せられた声を十分踏まえ、ソリューション営業、人財戦略、気候変動への取り組みをテーマとして設定し、我々の考えをお伝えする機会を作ることができました。また、社外取締役が登壇し、投資家の皆さまと意見交換する場も設けたことで、取締役会等での議論の状況について社外取締役としての立場からの見解をお伝えすることができたと感じています。
投資家の皆さまとの対話にも自ら積極的に参加するよう心がけています。投資家の皆さまからいただいたご意見を取締役会で報告・議論し、さらなる経営の高度化に努めています。いただいたご意見の中には政策保有株式に関するご指摘もございます。
政策保有株式に関しては、縮減方針を定めており、残高は着実に減少しています。普通株式等Tier1に対する政策保有株式の比率は取得原価ベースで10.6%、時価ベースでも15.8%と、他行と比べても低水準を保っています。しかしながら縮減に向けた方針には改善の余地があると考えており、投資家の皆さまからの意見を踏まえ、政策保有株式に対する考え方を「保有意義と経済合理性のフローチャート」という形で今回新たに示しています(P.35参照)。これまで縮減の実績を積み上げたことで今後の縮減のハードルは高まっていきますが、まずは政策保有株式に対する当社の基本的な考え方をより具体的に発信・開示するとともに、開示情報などを基に投資家や政策保有先の皆さまとの深度ある意見交換を重ねることで、縮減に向けた検討をさらに進めていきたいと考えています。
ステークホルダーの皆さまとの価値協創を通して、企業価値の向上と持続的な地域社会の発展を実現し、長期的にめざす姿に掲げる「地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・カンパニー」をめざしてまいります。